| Photographer | 根本 忠 | Writer | 岡本 秀達 | Navigator | 吹越 満 | 吉田 朝 | ||||
N:TVレポータの中小路綾の事件は、何千万人の人が見守る中起こった。彼女はこともあろうにTVの生中継中に自らの手で自らの頭を拳銃で撃ち抜いたのである。誰が見ても彼女が自殺したとしか考えられない事件だった。
彼女の死は彼女の実家である中小路家に大きな波紋を投げかける結果となる。興味本位のマスコミ報道の標的になったことと、当主・信一郎の遺産相続の配分が崩れたことだった。中小路家には忌まわしい過去がある。それはちょうど1年前にこの屋敷で起こった惨劇だった。
惨劇の夜、存命中の当主・信一郎の生前分与が行われた。それは実の子の長男・宏、長女・綾、次男・隼人の3人に全財産を均等に3分割し贈与するというものだった。その夜、惨劇は起こったのである。この事件は信一郎の強い意志で内々に処理され、警察にも届けられず、犯人は見つかっていない。
そして1年後、綾の事件がこの遺産相続の配分を崩すことになる。綾の死の直後、中小路家では緊急の遺産相続会議が行われた。出席者の中には、信一郎の無二の親友の忘れ形見の達也、亮子、香の姿もあった。そして、その夜惨劇は再び中小路家を襲ったのである。
前回と同じ庭園で2人の男は話していた。今日も雨が降っている。
「これでこの前に話した物語を思い出したかい?」
「もちろんです。中途半端に話を止められたんで、あの事件のことをずっと考えてたんですよ。」
「じゃあ、ここで改めて君の推理を聞きたいんだが。」
「ええ。あなたはこの前の話のときに、動機がTrapを解くヒントになるとおっしゃった。」
「確かに。」
「動機的にいちばんあやしいのは長男の宏だった。何故なら長女の綾は自殺をしていて、隼人さえ死ねば遺産は全て自分のものになる。」
「しかし、彼は車椅子での生活を余儀なくされていた。数年前の交通事故が元でね。犯行が行われたのは2階だった。彼が自力で2階へ行ったとは考えられない。」
「そこで私はこう考えた。遺産を独り占めしようと、宏を心の底から愛している香と共謀して、隼人を殺したのではないかと。香の献身さは異常でしたからね。」
「しかし、殺人事件には1つの疑問が残っている。隼人の死体は、顔を滅茶苦茶に殴られていた。顔の識別ができないくらいにね。」
「私はその答として、本当は隼人は生きていて、もう1人の遺産相続人である宏を油断させる行為だったと考えた。」
「しかし、それなら手も細工しなくてはならない。指紋という決定的な証拠が残るからね。
話の続きを始めよう。物語は中小路家に惨劇が起こった後から始まる。」
N:その日は夏の到来を告げるような蒸し暑い一日だった。中小路家に親族が集められたのはちょうど1年振りのこと。あの惨劇依頼のことだった。
萩原達也は中小路家を目指し、車を走らせていた。彼にとっても中小路家に向かうのは1年振りのことだった。TVディレクタという多忙な仕事のせいと、あまりいい思い出のない中小路家に、彼はよっぽどのことがないと立ち寄ろうとはしなかった。
達也の妹の亮子もまた中小路家に急いでいた。亮子は兄の達也とは違って月に1度、中小路家を訪ねていた。今も中小路家で暮らしている妹の香を心配していたからだった。香は中小路家の長男・宏の面倒を看ていた。どうも香は宏のことが好きなようだった。達也と亮子は宏に虐げられた思い出がある。そんな男に実の妹が夢中なのが心配だったんだ。
中小路家の当主・信一郎は病弱な長男・宏を心の底から可愛がっていた。しかし、宏は車椅子の生活を余儀なくされている。宏の世話をしてくれている香が宏の嫁になってくれればと彼は願っていた。それは中小路家の財産分与の際に願いではなく、決意に変わっていた。
「みんな集まったか?」
「はい、中小路家にまつわる者は全て。」
「お兄様、隼人さんは?綾さんは気分が悪いってお部屋で休んでらっしゃるけど...」
「香、綾さんはいないのよ。」亮子は静かに妹を諭した。
「亮子。」達也は亮子を制した。
「何を言ってるの?綾さんは...」
「だから...」
「亮子。」
「じゃ、隼人さんは?」
「隼人の話はもういい。」
信一郎は隼人の話題になり、不機嫌になった。
「お父さん、あまり興奮しないで。始めて下さい。」
「今日集まってもらったのは他でもない。遺産相続についてだ。
宏の財産の相続は香との結婚を条件に贈与する。」
「え?」
「お父さん、香ちゃんと結婚できるのは嬉しいけど、僕がこんな体だから香ちゃんに一生僕の面倒を看させるための条件じゃないんですか?」
「そんな...」
信一郎は何も答えない。
「図星でしょ。」
「私はお前のことを思って...」
「同情するな!こんな、こんな体だから馬鹿にするな!それにこんな奴らと親戚になるなんて。」
「宏さん、言い過ぎなんじゃありませんか?」
「亮子。」
「母さんも言ってた。達也たちを信用しちゃダメだって。」
「何ですって?昔からあなたたち親子は...」
「亮子!」達也は制した。
「お兄ちゃんは悔しくないの?」
「体が不自由でも、親にも死ねば...」
「宏さん...」
「宏、いい加減にしろ。それより香ちゃんはどう思う?」
「あたしは...宏さんと結婚できるのなら...」
「香...」
「そうか、そうか。これで決まった。」
その晩は嵐であった。雷鳴が轟く。
「あの日もこんな雨の夜だった。」
「ああ、あれから1年が経つ...」
「やめろ!あのことを思い出すのは!...あの出来事だけは思い出したくない。」
「ごめんなさい。」
「お前たちがいけないんだ。あんなことになったのも...」
「宏さん...」
「雨の日は気が滅入るんだ。」
「まさかあんなことが起こるなんて...私が最初に部屋に入ったのがいけないのよ。」
「亮子、自分を責めるな。誰もお前のせいだとは思ってない。いちばん辛かったのは宏さんなんだ。」
「同情するな、僕に!」
「みんな私が犯人だと思ってるんでしょ?死因が毒殺だったから、外科医の私なら簡単に毒を持ち出せたと思っているんでしょ?」
「亮子、やめろ。」
「いい加減にしてくれ!僕の前であのことを話すな。」
「香は達也と亮子のことも考え、宏との結婚を承諾したんだ。」
「なるほど。」
吉田はすました顔で答える。
「ずいぶん自信ありげだね。」
「ええ。私の推理通りにことが運んでるのですからね。信一郎は宏の相続の条件として香との結婚を提示した。これは隼人を共謀して殺した宏と香にとって渡に船だった。この後もし惨劇が起こるとすれば、亮子か達也が殺されるはずです。」
N:広間での遺産相続会議の後、中小路家の人々は自室に引きこもっていた。雨音の中、彼らには1年前の惨劇がよみがえる。このままでは終わらない、このままでは。きっとまた、あの惨劇は繰り返される。誰もがそう思い、眠れない夜を過ごしていた。その考えはこの夜の雨のなせるわざなのかもしれない。彼らはそう思い込もうとしていた。しかし、その予感は皮肉にも現実のものになる。
中小路家の人々はそれぞれの部屋で時を過ごしていた。うつむき考え込む亮子。ベッドで横たわる達也。熟睡する信一郎。車椅子に座り、カーテン越しに外を眺める宏。ローソク立てを持ち、階段を降り、廊下を進む香。玄関に靴が一足乱雑に履き捨てられていた。
「え?...やっぱり誰かが来たんだわ。この雨の中...」
香は更に浴室へ、そしてある一室の前に歩みを進める。
コンコン、部屋をノックする音が響いた。
「お兄ちゃん。」
「どうした?」
達也はベッドから起き上がり出てくる。眼鏡は掛けていなかった。
「さっき、誰かが廊下を歩いていたような足音がしたのよ。」
「え?」
「1階を歩いてたようなんだけど。1年前のことがあるでしょ。私怖くて...」
「本当に聞こえたんだな?」
香は廊下を進む。そのとき、目を剥くほど驚くべきものが彼女の前に現れた。
「あ、隼人さん?」
それは部屋から出て、立ち去る隼人の姿だった。
部屋からは灯りが漏れていた。
「まさか?」
香は隼人が出てきた部屋の中を覗いてみた。
「キャーッ!」
叫び声を上げる香。ベッドには宏の死体が横たわっていた。
N:香が宏の部屋で見たものは1年前の惨劇の再現だった。あの惨劇と同じように死体には無数の花びらがばらまかれていた。部屋の窓ガラスは割られ、外部から侵入者があったかのような痕跡が残されていた。しかし、中小路家の人々は知っている。それが偽装工作であることを。犯人は外から来たのではない。この屋敷の中にいる誰かが宏を殺したに違いないと。
それからしばらくときが経った。達也はTVディレクタとして働いていた。
夏の到来を告げるかのように蝉の声が辺りに響き渡っていた。
「緊張してるね。」
「ええ。少し。」
「大丈夫、僕は臨場感あふれるレポートをしてくれると信じてる。」
「そうね。頑張るわ。」
「そのいきだ。最終確認だけど、米軍の将校は拳銃をこめかみに当てて...」
| ホーム | 各ストーリー紹介 | #14.ストーリー・後編 | ||