#12. 表と裏  Twins

Photographer 斉藤 敦   Writer 田中 一彦   Navigator 吹越 満   吉田 朝

【ストーリー・前編】

曇り空のある日、丘陵の傍らで吹越は紅茶を飲む。紅茶を口にすると同時に吉田が現れた。
「どうも。」
そのまま腰を降ろす吉田。
「やあ。」
「もういらしてたんですか。」
「これから君に話す物語をもう一度整理していたところだよ。」
「新しいTrapをまた考えたんですね。」
「挑戦してみるかい?」
「もちろんですよ。」
吹越は早速話を始める。
「事件において、犯人を特定する要素はいくつかある。」
「確かに要素はいくつかある。例えば証拠、証人、動機、そしてアリバイ。」
「事件の初期捜査の中でいちばん最初に行うのが容疑者のアリバイの洗い出しだ。ミステリでは完全なアリバイもときとして、もろくも崩れ去ることがある。」
「完全なアリバイほど疑わしいものはないですからね。」
「今回はアリバイに騙されないように気を付けるんだ。目に見えるものだけに騙されてはいけない。」
「ええ。」
「それじゃ、今日の用意してきた物語を始めるとしようか。」

吹越は一枚の写真を取り出す。
「この男性が今回の主人公・村上健一。ごく普通の大学生だ。幼い頃から弟と仲が悪かったこともあり、ここ数年は実家を出て気楽な一人暮らしをしている。」
更にもう一枚写真を取り出す。
「そしてこの女性が健一の交際相手・相沢圭子。健一と同じ大学に在籍する女子大生だ。物語は時間と空間を越えて事件が発生したところから始まる。」

 





 

July,1st Daybreak

相沢圭子はボンデージの衣装を身にまとい、クラブで複数の男たちと代わる代わる、音楽に合わせ妖しく絡み合う。
N:男たちと女たちはその夜、欲望の全てをぶつけ合っていた。健一の知らないところで、相沢圭子もまた身を持て余していた。

July,2nd Early Morning

圭子はクラブのときの衣装のまま、倒れている。
N:何者かに殴打された圭子が自宅マンションで発見されたのはその朝のことだった。幸い発見が早く、すぐに病院に運ばれた圭子は、一命を取りとめた。

病院の集中医療室、圭子は点滴を受け、人工呼吸器をつけたまま眠っている。心電図がモニタされている。
N:凶器は圭子の自宅にあった花瓶。争った形跡もなく、深夜なのに圭子が犯人を部屋に招き入れているという2点から、顔見知りの犯行だと断定された。

「誰がこんなことを?どうして?」
N:健一は、昏睡状態の圭子の前に動揺していた。それはもちろんこの事件に対するショックもあったが、事件当夜健一が圭子の自宅に行ったのを目撃されていたからだった。
圭子の病室から出る健一。
N:犯行時間は深夜の1時から3時の間と断定された。近所の受験生の証言から、1時前後に圭子の自宅を訪れた1人の男と1人の女が判明した。ドア越しに圭子と立ち話をし、去っていった男の姿を受験生は目撃したんだ。その男というのが健一だった。その後、圭子の自宅からノートを抱えて出てくる女が目撃されている。その女というのは、健一と圭子のクラスメートの小林玲子だった。

July,1st Daybreak

N:実は圭子が襲われた深夜の1時から3時の間、健一は圭子には内緒で小林玲子と会っていたんだ。
健一の車の中で玲子は核心のことを聞き出していた。
「彼女の方が、圭子さんの方がやっぱり好きなんですか?」
健一は何も返事ができないでいた。
「いつもはっきりしないんですね。」
「いや...」健一の声は小さくかすれそうだ。
「今度うちのお母様に会っていただけないかしら?」
健一は何も言えないでいる。
「会っていただけないの?」
「いや...」
「冗談です。」

玲子ははっきりしない態度の健一にこれ以上の要求はできないと判断した。
「びっくりしたよ。」
健一は玲子の想いとは裏腹にホッとしていた。
「今...今、何時ですか?」
「今?」
玲子は健一の腕時計をのぞき込んだ。
「1時半か...」
「送ろうか。」
「いえ、もうあと1時間、1時間だけ一緒にいて下さい。お願い。」

N:健一は玲子とたった1度だけ関係を持っていた。純朴なお嬢様である玲子にとっては、それだけで一生涯の関係にもなる。しかし、健一には圭子がいる。事件当夜、健一は玲子との関係を清算しようとして、玲子と会っていたんだ。2人のアリバイはお互いが証明していた。

再び、病室の前。健一は昨夜のことを思い出しながらつぶやく。
「いったい誰が圭子を?俺が...俺が突きとめてやる!俺が。」

July,2nd Afternoon

大学の構内。校舎の近くのベンチで玲子は本を読んでいる。玲子は眼鏡をかけている。
N:玲子はいわゆるお嬢様タイプの物静かな女子大生だった。
「玲子さん。」
「健一さん。」
健一の呼びかけで玲子は顔を上げた。
「あの...」
「昨日私が言った母と会って下さる件、真剣に考えていただけませんか?」
「いや...」口ごもる健一。
「あ...ごめんなさい。圭子さんがあんなことになった次の日に不謹慎なこと言って。」
「玲子さん、事件のあった日何のために圭子のマンションに行ったの?」
健一はついに重い口を開き、一気に核心に触れた。
「フランス語の...フランス語のノートを借りに行ったの。」
今度は玲子が動揺を隠しきれなかった。
「もしかして健一さん、私を疑っているの?...ひどい...」
うつむいて涙を浮かべる玲子。
「いや、違うよ。」
慌てて弁解する健一。
「あなたが...」
「何?」
「何でもないです。」
玲子は言いかけた言葉を飲み込んだ。

July,2nd Evening

健一は自宅マンションで事件のことを考えていた。
(目撃者の証言から事件当夜、圭子のマンションに出入りしたのは俺と玲子だけ。俺が圭子のマンションに本を返しに行ったとき、圭子に異常は感じられなかった。とすると、犯人の可能性は俺か玲子のどちらかになる。でも犯行時間に俺は確かに玲子と一緒だった。玲子に時間を聞かれたから正確に覚えている。
でも、あのときの玲子は変だった。あと1時間一緒にいて欲しいと言ったかと思えば、1時間たったら急に帰ると言い出した。まるでその時間、俺と一緒にいなければならなかったように。俺は玲子のアリバイ作りに協力させられていたのか?犯人は玲子?いや、しかし玲子はずっと車にいた。玲子は圭子を襲えるはずはない。)

N:健一は玲子を疑った。玲子は何かのトリックを使ってアリバイを作ったのではないかと考えた。そこで健一は玲子のことを密かに探ってみることにした。

July,2nd Evening

玲子の自宅前。閑静な住宅街で豪華な屋敷である。
N:さんざん玲子を捜したあげく、彼は玲子の自宅前で待つことにした。しばらくして玲子は自宅に戻ってきた。
玲子は白い服装である。
N:しかし、30分後彼女は再び姿を見せた。
玲子は黒い衣装で、レザーの黒い帽子をかぶっている。眼鏡はかけてなく、メイクも攻撃的に仕上げている。昼の控えめな彼女とはまるで別人のようだ。
彼女は自宅前に呼んだタクシーに乗り込んだ。
「あれが玲子?それに、こんな時間からどこへ行くんだ?誰かに会いに行くのか?」
彼は車でタクシーを追う。

N:玲子は繁華街の裏手にある、入り口の目立たないクラブへと入っていった。
玲子は音楽に合わせ、踊りまくっていた。
「玲子...俺のことを...」
「健一...」玲子は立ち止まった。
「昼間とはずいぶん違うんだな。聞きたいことがあるんだ。」
「何なのよ。」
服装だけでなく、言葉遣いも乱暴である。
「話があるんだ。出ないか?」
「話することなんかないわよ。どっか行きなよ。」
男が出ていかないことを悟ると、玲子はきびすを返し、逃げるようにその場を立ち去った。
「ちょっと待てよ!...やっぱりアイツ...」
N:彼女はどうしてあんなに動揺したのか?逃げる彼女の後ろ姿に、彼は自分の推理が正しかったことを確信した。」


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