| Photographer | 斉藤 敦 | Writer | 植竹 英次 | Navigator | 吹越 満 | 吉田 朝 | ||||
新緑がまぶしい庭園に白いテーブル1つと白い椅子が2脚置いてある。吹越はそこに一人腰掛け、紅茶を飲みながらたたずんでいる。
そこへ吉田が微笑みながらやってきた。
「やっぱりここでしたか。あなたがいろんなゲームに飽きたと聞きましたが。」
「そんなことないよ、僕は新しいゲームを発見したんだ。」
吹越はにこやかに微笑みながら語った。
「君は人生を楽しむコツを知ってるかい?そいつさえ飲み込めれば人生は2倍楽しめると思うんだ。」
「ほう、そいつは興味深い。どんなコツなんですか?」
吹越の言葉に、吉田は身を乗り出した。
「考えることだよ。自分のイマジネーションを拡げるんだ。」
吹越は一冊の日記帳をテーブルの上に出した。
「ここに1冊の日記がある。ある人物が人を殺すまでの感情の変化を書きとめてある。この日記をめぐって話は意外な方向へ発展する。
この日記をめぐるTrap、これが僕の発見した新しいゲームなんだよ。この話のTrickに君も挑戦してみるかい?」
「え、ええ。」吉田は戸惑いながら、うなづいた。
「話を進めるために写真を使うが、これには別の謎が仕掛けられている。
物語はこの日記から始まる。日記には『殺意の日記』と題が書かれ、3月8日から書き始められている。」
『殺意の日記』 |
電話の呼び出し音で、靖は目を覚ました。
(アイツからの電話か。明日会う約束をしていたからその時間の変更か。しかし、あまりに僕は疲れている。)
しかし、靖には1つ気掛かりがあった。
(いや、圭子?そう、こんな時間に掛けてくるのは圭子ぐらいなもんだ。
軽い気持ちで付き合ったのに、勝手に部屋の合い鍵は作るは、写真は置いていくは。どうにかしなければ...)
翌朝、靖は外に出かけた。
(向かいの住人が引っ越したことと、わずかに感じる春の匂いが、僕に初春の到来を告げている。
仕事に追われる日々の生活の中で僕の季節感は完全に麻痺してしまっている。
久しぶりに取れた休日もアイツのために返上か。金にルーズな弟。今日呼び出されたのも、また金のことか。)
喫茶店で靖と健の兄弟は久しぶりに顔を会わせた。
「何だ急用って?」靖の言葉はとげとげしい。
「うん、ちょっとさぁ...」健は言いにくそうに口ごもる。
「お前に貸していた経営学の本、使うんだ。」
「あ、あぁ。あの本ね。すぐ返すからさ。」
「...今日は何だ。」
「うん...あのさぁ、言いづらいんだけど。」
「金か...」
「うん、まぁね。」
「俺に言うより、お袋に頼めよ。」
「それができれば頼まないよ!」一瞬、健は語調を高める。
「何に使ったんだ?」
「ちょっとね。」ふてくされる健。
「お前はいつもそうだ。」
「ちょっとサラ金にさ、追われてさ。」
「たまには自分で解決しろよ。...で、いくらなんだ?」
「もう、いいよ。兄貴には頼まない。いつも兄貴はさ...」
『殺意の日記』 |
繰返し掛かってくる電話に、靖はいらつきながら受話器を取った。
「はい。」
「もしもし、私。」電話は女の声だった。
「ああ。」
「今日さぁ、その子の結婚式の2次会に行ったんだけど...」
「用はなんだ?」靖は冷たく突き放す。
「別に...」
「用がないなら切るぞ。」
「どうして避けるの?」
「何が?」
「来年の3月22日、あなたのお母様の誕生日に結婚しようって約束したじゃない。」
「結婚する気はない。」
「ちょっと待って...」ガチャリと靖は電話を切る。
すぐさま、電話のベルが鳴った。
「はい。」
「ひどいじゃない、切るなんて...」ガチャリ、またしても電話は切られる。
3度電話が鳴り響く。
「冗談じゃないわよ!あなたのために私が今までどれほどのことをしてきたと思ってるの。
忙しいっていうから部屋で待っていても帰ってこないし。私はSEXのはけ口だったの?」
「午前3時31分です。ピー」
「午前4時08分です。ピー」
その後、留守番電話には無言のメッセージが永遠と続いていた。
(電話は続いている。留守番電話は圭子のメッセージを録音し続けている。明け方、昼間、そして夜中も。電話が怖い...)
靖は自分の蒔いた種に少しずつ恐怖を感じ始めた。
吹越はタバコに火を付け、物語ををいったんやめた。そして一服ついて、吉田に感想をもらす。
「女の情念というものは怖い。」
「脅迫と殺意、靖の心は混乱しているんですね。」
にやりと笑う吹越。
「彼は夜中の電話にヒントを得た。この恐怖を殺そうとしているアイツにも味あわせてやろうとね。」
『殺意の日記』 |
『殺意の日記』 |
バーで兄弟は再び顔を会わせる。
「借金、大丈夫か?」
「いや...」
「やっぱりお袋に言った方が...」
「まさかお袋に?」
「言ってないよ。」
しばらくの沈黙の後、健は話題を変えた。
「そういえばさっき兄貴のマンションで女の子としゃべったんだ。引越してきたんだって。お茶飲まない?って誘っておいた。」
「名前は聞いたのか?」
「うん、確か武藤...」
「武藤?!」凍り付く靖。
「そう、武藤。」
「まさか圭子?」
「いや、確か由美っていってたなぁ。圭子ちゃんがどうかした?」
「...はははは...」安堵のためか、靖は気の抜けた笑いを思わず続けていた。
「兄貴、どうしたんだよ。変な奴。」
『殺意の日記』 |
靖はドア越しから向かいの部屋を眺めていた。
(向かいの部屋に誰か引っ越してきたようだ。シルエットで姿見が見える。
女?まさか?僕が圭子の誕生日にねだられて買ってやった姿見か?あの形、確かに見覚えがある。
圭子が、圭子が越してきた!)
圭子の影に怯え、靖は家を飛び出した。
靖不在の間にも留守電は相変わらず無言のメッセージを録音し続ける。
『殺意の日記』 |
玄関のチャイムで健が出ると、そこには靖が苦渋に満ちた顔で立っていた。
「兄貴、どうしたんだよ?急に。」
「別に...。ほ、本。本を取りに来た。貸してた経営学の本だよ。」
「あぁ、とにかく入れよ。」
靖を部屋に入れ、コーヒーを沸かしながら健は聞いた。
「俺んトコ来るなんて珍しいな。」
「まぁな。」
「圭子ちゃん元気?」
「あ、あぁ。」狼狽する靖。
「しばらく会ってないなぁ。」
「それより、借金返したのか?」
「...まぁね。」
「嘘つけ。簡単に返せないだろ。」
「関係ないだろう。もう子供じゃないんだ、ほっといてくれ。」
「お袋に頼めよ。」
「お袋は関係ない!」語調を高くする健。
「確かに関係ない。お前の問題だ。でも返せるのか?泥棒でもするのか?これ以上家族に迷惑を掛けるなよ。」
「迷惑?!」健の顔色が変わった。
「あぁ、迷惑なんだよ。いつも問題ばかり起こして。」
「出てけよ!兄貴に何が分かるんだよ!兄貴面しやがって。」
『殺意の日記』 |
圭子が靖のマンションにやってきた。
あいにく靖は不在だった。しかし、圭子は構わず部屋に入り、奥へ進む。
靖の机で日記を見つけた圭子は、それを読み始めた。
「『殺意の日記』?
3月22日
アイツを殺す。僕はアイツを殺すことを決意した。後は実行に移すだけだ。...」
日記を読んだ圭子は、日記を抱えたまま、慌てて走り出した。そして健のマンションへ。
「健ちゃん、あなた殺されるわよ!お兄さんの家にこれが。」
『殺意の日記』 |
吹越はここで日記を閉じた。
「Trickは分かったかい?」
「Trick?え?いや...でも最後の日記、変ですよね。」
吉田は何がどうなっているのか全く分からない。
「いいところに気が付いたね。じゃ、謎解きをする前にもう一杯。」
お茶をすすめられて、吉田は相槌を打つしかなかった。
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